実話をもとに絵本をつくりました。
ののちゃんは実在する檀家さんの娘さん。おじいちゃん子で、よくおじいちゃんと一緒にお寺に来てくれていました。
うちのお寺では毎年8月16日に近くの川で灯籠流しを行っていました*1。ある年の灯籠流しの日の、ののちゃんとおじいちゃんの微笑ましいやりとりが、そこにいた人みんなの心に残っていて、今回それを絵本にする運びになりました。
絵を描いてくれたのは、ののちゃんの家の隣にあった酒屋兼パン屋のおばさん。灯籠流しの日にその光景を見ていた一人です。 私が昨年の寺報にこのお話を載せたところ、「私、絵を描くから、この話を絵本にしようよ!」と声を掛けてくれました。
それでは絵本「ののちゃんととうろう流し」のはじまりはじまり。
ののちゃんはおじいちゃんと灯籠(とうろう)流しにきました。
灯籠にひとつひとつ明かりをつけて川に流していきます。
「おじいちゃん、これはなあに。」
と、ののちゃんは聞きました。
「これは”とうろう”だよ。あの世へ行ってしまったおばあちゃんやご先祖さまたちはお盆にみんなに会いに帰ってきてくれるんだ。そして、お盆が終わったら、灯籠に乗ってあの世に戻っていくんだよ。」
「灯籠には、みんなのご先祖さまが乗っているんだね。」
灯籠の明かりはゆらゆらと川を流れて、とてもきれいでした。 ののちゃんとおじいちゃんはたくさんの灯籠の明かりをながめていました。
すると、おじいちゃんが、
「おれも死んだら、誰かこうして灯籠を流してくれるのかなあ。」
と言いました。
それを聞いたののちゃんはびっくりしました。おじいちゃんが死んでしまうなんて考えたことがなかったからです。
「おじいちゃんは死なないの!!」
ののちゃんは怒りました。
しかし、まわりにいた大人たちは、
「おじいちゃんは幸せだねえ。ののちゃんにこんな風に思われて。大丈夫、ののちゃんがちゃんと送ってくれるよ。」
と、笑っていました。
おじいちゃんが死んでしまうことを考えたら、涙がぽろぽろこぼれてきました。どうしてみんな笑っているんだろう。ののちゃんは涙をこらえて、もう一度みんなに言いました。
「おじいちゃんは死なないの!!」
しかし、その次の年、おじいちゃんの体に病気が見つかり、おじいちゃんはあっという間に亡くなってしまいました。 毎日一緒に遊んでくれた優しいおじいちゃんとのお別れは、とてもとてもつらいものでした。
そしてまたお盆がきました。
灯籠流しの日です。
今日は、おとうさんとおかあさん、妹のすずちゃんと弟のむつきくんと一緒です。
ののちゃんはおじいちゃんの名前が書かれた灯籠を見つけて、流れていくのを走って追いかけました。
「おーい!おじいちゃーん!また来年、会いに来てねー!」
おじいちゃんはあの世でなにをしているのかなあ。
あの世では、おじいちゃんはおばあちゃんと一緒にいて、みんなが幸せに暮らせるように、いつも見守ってくれているのです。
嬉しいときも悲しいときも
楽しいときも辛いときも
おじいちゃんはずっと見てくれていますよ。
おじいちゃんは、今頃、おばあちゃんと一緒に笑っているかな。
おじいちゃん、お盆にまた遊びにきてね。
おわり。
実は、私はこの場にいなかったんです。この年のお盆は高野山で僧侶になるための修行中でした。おじいちゃんがこんなことを言うからみんなで笑ってたら、ののちゃんが本気で怒って泣いちゃって可愛かったんだよ、という話をあとから聞いただけだったのですが、まさか、次のお盆にはおじいちゃんが亡くなってしまうとは。この年のお盆には誰も想像できなかったことでした。
これは裏表紙のために描いてもらった、ののちゃんの妹すずちゃんの絵です。このすずちゃんのエピソードもとても印象に残っているので、この絵を描いてもらいました。
おじいちゃんが亡くなって約1年後の七夕のとき、短冊に書くお願い事を保育園の先生に聞かれた3歳のすずちゃんは「おじいちゃんに会いたい」と答えたそうです。誰に言われたわけでもないのに。
すずちゃんはこのときまだとても小さかったので、まさかすずちゃんがこんなふうに考えているなんて思いませんでした。すずちゃんも、いつもおじいちゃんの膝の上でお経を聞いていたのを覚えています。ちっちゃいすずちゃんもやっぱり寂しかったんですね。
今ではののちゃんが6年生、すずちゃんが2年生、赤ちゃんだったむつきくんも年長さんになりました。おじいちゃん、もちろん見てくれているだろうけど…お孫さんたちはみんなこんなに大きく立派になりましたよー!!
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*1:今は環境問題への配慮で灯籠を川や海に流すことができません。うちのお寺では檀家さんやそれ以外の有志の方々に手伝ってもらって「川下で灯籠をすべて拾い集める」という方法で灯籠流しを続けていました。しかし、夏とはいえども北海道の川はたいへん冷たく、その作業も危険が伴うものでした。そのため、夏の風物詩として定着しつつあった灯籠流しも数年前に廃止することになりました。灯籠流しは日本の美しい風習のひとつだったと思うので続けることができす残念です。